銀次のブログ

日々の何気ない思考を書き連ねる

鳥山明と猿みたいな人生

小学生の頃のわたしは、毎週発売される週間少年ジャンプでドラゴンボールを読むのが人生最大の楽しみだった。都会のほうじゃ1日早く読めたらしく、あの当時、どんなにそれを羨んだことか。あれほどワクワクした漫画はなかったし、絵を描くのが好きだったわたしは、鳥山明の絵をしょっちゅう模写してた。

数年間、毎週買ってもらってたジャンプを、もう買わなくていいと母に告げたのは、ドラゴンボールの連載が終わるのと同時だった。ほどなくして、山のように溜め込んだジャンプを一気に処分し、漫画そのものをほとんど読まなくなった。

大人になってから、もう一度ドラゴンボールを読みたくなって漫画喫茶に行ったことがあった。不思議なことに、あれほど続きを待ち焦がれた物語になんの魅力も感じず、絵も手抜きに感じた。えっ、ドラゴンボールってこんな雑な絵だったっけ?と、違和感。結局、何巻かさらっと流し読みして、それ以上の興味も持てず、ほかの漫画を読んで店を出た。

ドラクエで例えるなら、ドラクエ3、4、5のパッケージには夢のような浪漫を感じたけど、ドラクエ6のパッケージには魅力を感じられず、以降、7は「は?」って感じだったし、8に至っては、あまりに酷くてひっくり返りそうになった。一応買うし、プレイはするけど、なんじゃこれはと。

続く9、10(未プレイ)、11も、どれもまったく魅力を感じず、鳥山明が変わってしまったのか、自分の感性が変わったのか定かじゃないけど、鳥山明の才能を語るとき、大半の人が95年辺りまでの絵を引き合いに出すところを見るにつけ、やっぱりこう思ってしまう。

莫大な富と引き換えに絵を描く力を失ったんじゃないかと。


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鳥山さんが亡くなってから、彼が漫画家として大成するまでのエピソードを語った動画がYouTubeにいっぱい流れてきた。子供の頃からあらゆる物の絵を描き続け、イラストレーターになりたくてデザイン会社に入社するも、朝起きられなくて遅刻しまくり、減給され、新人の女子社員と同じ給料まで下げられたのに驚いてその会社を2年で辞めたらしい。

他にも、スーパーのチラシのデザインばかりやらされて、仕事内容が理想と違ったのも辞めた原因だったみたい。のちにそれも、漫画家として物の形を知るうえで良い経験になったと語っていたけど。

そんなこんなで、生活費に困った鳥山さんは、ジャンプで新人賞を獲れば50万円もらえると知り、さほど興味のなかった漫画を描くことにした。

天才的な才能を持った青年が、お金のために絵を描きはじめた瞬間ですねえ。

下積み時代はあるにせよ、Dr.スランプ発表後は、ほとんどの人がご存知の通り、とんでもない快進撃であっと言う間に長者番付1位になった。その当時、鳥山さんが徹子の部屋に出演した映像がYouTubeにあったので見てみると、ちょっと変わった雰囲気の人という印象しかなく、うだるほどの富と名声を得ても、驕った様子はまったくない。むしろ、ニコニコして人懐っこい感じがして、好印象。

ただ、わたしが唯一気になったのは、鳥山さんがアラレちゃんの眼鏡を描くのを「めんどくさい」と言ったこと。この一言にすべてが表れてると思った。

もともとイラストレーターになりたくて、絵を描くのが大好きだった鳥山さんは、眼鏡をかけた少女としてアラレちゃんを生み出した。なのに、描くのがめんどくさいと言う。

会社員時代、締め切りに間に合わないとどれだけの人に迷惑がかかるか身を持って体験したため、漫画家になっても締め切りだけは必死で守った鳥山さん。常に締め切りに追われ、同じ顔を何度も描き、ネタ切れの不安もある。そんな中で描いてると、眼鏡なんかめんどくさくなって当然。そうしてドラゴンボールの後期の絵も徐々に手抜きになったんだろうと、至極納得した。

絵を描くのが大好きだった才能ある青年が、お金のために漫画を描き、金儲けの道具にされ、40代に突入する頃にはすでに絵の魅力が失われつつあった。無駄を省き、締め切りに間に合う効率重視の絵ばかり描いたせいだろう。

馬車馬のように漫画を描かされ、莫大な金を生み出し、どこの馬の骨かもわからないわたしのような人間に「雑な絵」と言われる。こんな悲惨なことってある?素晴らしいイラストを描いてきた人なのに。

 

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今回のタイトルに「猿みたいな人生」とつけたのは、私たちはまるで、餌をもらって芸をする猿みたいだなって思ったから。金という餌をもらうために、必死で頑張って、心のゆとりをなくし、どうすれば効率よく餌をもらえるかばかり考えてる。人より多く餌をもらえば満足し、少なければ不幸と嘆き、他人が多く貰えば嫉妬する。まさに猿みたいな価値観で、理性のかけらもない。金金金の守銭奴。いっぺん考えてみて欲しい。

その金でいったいなにが買えるの?

もしこの世界に金という餌がなければ、鳥山さんはあのような魅力的なキャラクターを生み出したり、あのような素晴らしいイラストを残せなかったんだろうか。もしくは、漫画家としての大成功がなかったとしたら、鳥山さんは死ぬまでその才能を枯らすことなく、絵を描き続けることができただろうか。

私たちは、守銭奴が支配する世界に生まれなければ、もっともっといろんなことを考えられ、自分がなんのためにこの世界に存在してるのかを感じることができたんだろうか。いやはや、

考えれば考えるほど金の邪悪さが浮き彫りになる。

合掌。

おあとがよろしいようで(よろしくないw)