10年くらい前の話。
大阪に野暮用で滞在中、暇だからアプリを見てたら、メッセージがきた。
「今からお茶しませんか?」
ありがちな誘い文句。
プロフ写真を見ると、画質が粗くて角度つきなせいか、顔がハッキリわからない。ただ、短髪ラウンド髭のイカホモ風なのはわかる。こういう写真、普段なら警戒するとこだけど、せっかく大阪にいるんだし、たまにはいいかと思ってOKの返事をしてみた。
待ち合わせ場所で待つ。
待ちながらもう一度相手のプロフ写真を確認する。ワンチャンかなり格好良い人が来るかもしれない。解像度の低さの中に、微妙にそんな雰囲気がある。
しばらくすると、目の前に小太りロン毛で髭モジャの、なんだか小汚い感じの男がママチャリに乗ってやってきた。まさかこれじゃないよな、いくらなんでも。そう思った矢先、
「銀次さんですか?お待たせ」
と、挨拶された笑
「え、テツさん(仮名)ですか?😅」
そう答えながら、内心、
「写真と全然ちゃうやん!😫」って叫んでた笑
本当にまったく違ってた。まず、髪が長い。長すぎる。背中まである髪を首の辺りでひとつに結んでる。そして髭。伸ばしっぱなし。汚い。インドの修行僧みたいなチリチリの髭が10センチ以上ある。服装もそのルックに相応しく、どことなく清潔感を欠いている。そして何故か、片手にアサヒのスーパードライ缶を持ってた。
「酒飲みながら来たんですか?😅」
「うん。飲みながら来た😊」
この人、なに?
初対面の印象、最悪である笑
……☕️
わたし達は近くの喫茶店に入った。
昭和のレトロ感漂う、小さな個人店だった。静かだし雰囲気は好きなんだけど、こういう店はゲイが初リアルで使うには少々問題がある。隣の席との間隔が狭く、全方位に会話が丸聞こえなのだ。そのときもお客さんが数名いた為、おのずと会話の内容に制限がかかる。
テツさんこと、てっちゃん(本人がそう呼んでくれと言った)とわたしは、珈琲を注文。待ってる間にてっちゃんはタバコを取り出して火をつけた。わかばだった。知らない人のためにに説明すると、わかばはニコチン、タールがきっつい、言わずと知れた「基地外タバコ」である笑
……🚬
激苦の珈琲をチビチビすすりながら、当たり障りのない会話が続く。てっちゃんはコテコテの関西弁を喋るから、何となく接しやすい。書き忘れたけど、てっちゃんは34歳。一応年上。聞くところによると、プロフ写真はかなり前のもので、髪も髭も切るのが面倒で伸ばしてるんだとか。それでどうやって社会生活を送ってるの?という疑問が浮かんだけど、口には出さなかった笑
そうして話しているうちに、わたしは思いのほかてっちゃんが可愛い顔をしてることに気づいた。若干の不健康さは感じるものの、目は生き生きとしてるし、楽しげに話してくれる。そんなてっちゃんを見ながら頭の中でイメージしてみる。超ロン毛をイカホモカットにして、ボーボーの髭を形成した6ミリのラウンド髭にする。よし、このルックなら可愛い(あくまでも脳内イメージ笑)。
……🧔
喫茶店を出た後は、適当に町ぶらすることにした。この辺りはてっちゃんの生まれ育った町らしく、どんなとこでも案内できると豪語された。わたしが、「歯抜けのおっさんがワンカップ片手に独り言しゃべってるような場所に行きたい」って言ったら、笑いながら「ええで」と答えてくれた。
歯抜けのおっさんは見当たらなかったけど、どことなく陰気くさくて猥雑な大阪の町を歩いていると、いつの間にか時間が経ってた。日が沈んでもう暗い。
「今日はこのあとどうすんの?」
「ネカフェに泊まって早朝のバスで帰るかな」
「ウチ泊まれるけど来る?」
「うーん……やめとく」
「そっか」
そんな会話がなされたあと、てっちゃんが突然ひらめいたように言った。
「ゴゴイチの豚まん食ったことある?」
ゴゴイチ?なんだそれ。食べたことない。ゴゴイチという名前すら初めて聞いた。てっちゃん曰く、大阪では超有名で、めっちゃ美味いらしい。
「せっかく大阪来たならゴゴイチの豚まんは食っといたほうがええで。こっからやとちょっと遠いけど、今から買いに行こうや」
そうして、わたしとてっちゃんは、自転車で二人乗りしてゴゴイチに向うこととなった。
……🚲
チャリの後ろに乗ってびっくり。荷台部分が平らじゃなくて、かなりの凹凸がある。普通に座ってるだけでクソみたいにケツが痛い。なのにてっちゃんは、道の段差をまったく意に介さず、平気でドスンどすん衝撃を与えてくる。正真正銘、何の苦行だよレベルの激痛に襲われる。
もう限界!ケツが死ぬ!一旦降りる!
そう言おうと思った刹那、警察に呼び止められた。
「はい、そこの2人ー、2人乗りはやめなさい」
警察、神。
あと数秒遅かったらケツで死んでた。
そこからわたし達は歩いてゴゴイチに向かった。
……🚶♂️
ゴゴイチ到着。店の前には行列ができてた。え、みんな豚まんのためにこんな並んでるの?と、飲食の為に並んで待つのが論外のわたしは驚く。生まれてこのかた、そこまで豚まんを欲したこともない。ただ、てっちゃんと並んでいるので気は紛れる。
わたし達の順番になり、なにを注文しようかと思った矢先、「これとコレ」と、てっちゃんがサクっと注文してくれた。わたしが支払いのために財布を出すと、
「ええて、ええて、せっかく大阪に来てくれたんやし、おごるで。お土産、お土産」
と、ゴゴイチの豚まんと焼売をおみやとして持たせてくれた。ありがとう。てっちゃん🙏
わたしにゴゴイチのお土産を手渡したあと、てっちゃんは自転車に乗って颯爽と帰って行った。
「また大阪来たらお茶でもしよ」
最後にそう言って。
それから何度も大阪へは行ったけど、てっちゃんに会うことはなかった。これから先も、もう会うことはないのかもしれない。だけど、ゴゴイチという単語を聞くたびに、わたしはてっちゃんのことを思い出す。ネカフェで匂いの拡散に怯えながら食べたゴゴイチの豚まんは、めっちゃ美味かった。
てっちゃんは今もどこかで、元気に暮らしているのだろうか。そうであると願いたい🤲
おあとがよろしいようで🐷笑